今回その「理由」に選んだのは、サイドカーです。
私自身、いちばん好きなカクテルでもありますし、今回意識して読んでもらいたいのは、
「甘味と酸味のバランス」についてです。
Side Car
Remy Martin VSOP 60ml
Cointreau 15ml
Lemon Juice 15ml
Orange Peel 1片
まずコアントローとレモンジュースをシェーカーに入れ、バースプーンでよく混ぜた後、味見をする。甘味と酸味のバランスが決まったら、ブランデーをシェーカーに入れ、氷を入れてシェークする。よく冷えたカクテルグラスに注ぎ、最後にオレンジピールをして供する。
「コアントロー + レモンジュース」「コアントロー + ライムジュース」の組み合わせ。
いわゆる鉄板の(味の組み方としてほとんどの人が美味しいと感じる組み合わせ)ひとつ。
ホワイトレディ、バラライカ、XYZ、マルガリータ、サイドカー、サイレントサードなどなど。長らく飲み継がれてきたこれらのカクテルたちはみな、「甘味と酸味のバランス」の上に成り立っている。
レシピの段に、先にコアントローとレモンジュースを混ぜて味見をする、と書いた。
なぜかと言うと、すべて入れた後で味見をしても、甘酸味の微調整が難しくなるからだ。
私は、すべて入れてから微調整ができるほど自分の舌に自信がないので、甘味と酸味がきちんと主張している状態で、まず調合してみて、バランスが悪ければその時点で調整する。
サイドカーに限らず、甘味と酸味のバランスが味の8割以上を構成しているようなカクテルでは、すべて同じ順序で作るようにしている。
逆に「甘味と酸味のバランス」がバッチリ決まってしまえば、ベースのお酒をいくら入れようが、そうそう味が崩れることはないのだ。
そして、甘味と酸味を調合する際、基本的には同量で調合すること。
同量で調合した甘酸味のバランスをしっかりと舌に記憶し、そこから微調整していくのだ。
仕上げのオレンジピール。
カクテルブックなどにはその記載は無いが、私はショートに限らず、カクテルの仕上げにけっこう使う。ひと口目のあたりがとても豊かになり、軽さももたらしてくれるからだ。
実際にオレンジを使用して作られている、コアントローやグランマニエ、赤ワインをベースに作られているスウィートベルモットやデュボネ、カンパリやピコンなどの薬草酒(特に苦み系)などなどはオレンジピールととても相性が良い。
そして、ピールもカッコよく飛ばすことができれば、とてもいい所作のひとつになるので、
あわせて自分のものにしてしまいたいところだ。
そういえば、ベースのお酒の銘柄について。
これは、前回のジントニックの際にもあえて触れていないが(レシピへの記載はあくまで現在使用している銘柄という意味で)、正直そんなにこだわらない。
ジントニックに関して言えば、ジンが入っていない状態での味のバランスの作り方、
サイドカーに関して言えば、「甘味と酸味のバランス」の調整のほうがよっぽど大事だ。
基本的な「おいしい味のつくりかた」をきっちり理解したうえで、ベースのお酒の銘柄による個性がようやく出てくるのだ。
だから、いくら高級なブランデーを使おうが、「甘味と酸味のバランス」がダメなら、そのサイドカーは絶対に美味しくない。しかし、「甘味と酸味のバランス」が良ければ、どんなブランデーを使おうがきっちり美味しく仕上がる。
カクテルの味を決めるのは、「ベースになるお酒の銘柄」では断じてない、ということだ。あくまで銘柄は、美味しさのバランスを担保した上での作り手の個性の表現に他ならない。
と、書いてきたが、この「甘味と酸味のバランス」を自分のものにしてしまえば、ショートカクテルの界隈はけっこう攻略できると言っていいと思う。
同量を基本とした上での「自分の基準」をぜひ発見していただきたい。