現在のBARにおけるオーダー率No.1のカクテルが、この「ジントニック」だ。
昔は、カクテルの王様と呼ばれているマティーニだったが、少なくともこの20年くらいはジントニックの時代だ。ジンの塊のようなタフな飲み物よりもライトなものが求められる時代だからだろう。
自身でずっと作り続けてきたカクテルでもあるが、ゲートホテルでのジントニックがなぜ現在のレシピになったのか、その「理由」について触れてみたいと思う。
まず、「どんなジントニックをゲストに飲んでもらいたいのか」が大事だと思っている。
そして私が、ゲートホテルが、目指しているジントニックは、飲み終わったあとに
「もう1杯飲みたくなるような」仕上げ方をしたものだ。
アルコールの強さをあまり感じすぎず、飲み終わった頃にさわやかな「抜け」があるもの。少しだけ物足りなくなって、次の1杯をオーダーしてしまうという仕組みだ。
Gin & Tonic (GATE Ver)
Beefeater Dry Gin 30ml
Schweppes’ Tonic Water 適量(8分目程度)
Wilkinson Soda 15ml程度
Fresh Lime 1/8 Cut
10オンスタンブラーに氷を入れ、材料を順に注ぐ。
最後にライムでグラスの口を濡らし、しぼった後、氷を軽く持ち上げて仕上げる。
最後にしぼったライムをグラスの中に入れる。
上記が現在のレシピだが、ポイントがいくつかある。
・なぜソーダを少し加えているのか
・なぜライムの果汁でグラスの口を濡らすのか
・なぜライムを最後にしぼるのか
・なぜ氷は軽く持ち上げるだけなのか
・なぜソーダを少し加えているのか
→これは先述した「抜け」を意識しているから。現在、国内で販売されているシュウェップスのトニックウォーターは、おいしいが全体的に甘さが少しくどく、飲み終わったあとのノドの奥にひっかかるような甘さが残る。この甘さを少しだけ薄める役割として、ソーダでプレスする手法をとっている。甘さを少し弱め、ライムの酸味で引きしめるというやりかただ。
・なぜグラスの口をライムで濡らすのか
→これは「スイカに塩」と同じ理屈だ。
いちばん最初に口にあたる部分に酸味を施しておくことで、ひと口目の印象や味わいの輪郭を(特に甘味に関する部分を)はっきりさせる意図がある。
・なぜライムを最後にしぼるのか
→これは、バーテンダーによってけっこうはっきり分かれるところだが、私は「後にしぼる派」である。なぜかと言うと、トニックやソーダよりも比重が重いから。
しぼった後の果汁の行方をじっくり見てみると、ゆっくりとグラスの底まで落ちていくのがわかるだろう。
そして、そのまま「・なぜ氷は軽く持ち上げるだけなのか」にも答えてしまうが、
総称で「スピリッツ」と呼ばれる無色透明なお酒は、非常に混ざりやすい。
トニックやソーダも含め、炭酸飲料はガスが上にあがる性質がある。
氷を持ち上げることで、上にあがってくる炭酸の力と、下にさがってくるライムの果汁を
ワンアクションで混ぜてしまおうという狙いだ。
よくカクテルブックを見ると、「炭酸は氷にあてないように静かに注ぐ」と書いてあるが、
私は少し疑問に思っている。
静かに注ぎすぎると、まったくガスがあがって来ず、「ガスが寝ているような状態の炭酸」になってしまうことがけっこうある。
一度、寝ている炭酸を起こすような作業が必要になってしまうのだ。
だったら氷にあえて当てるように注いだり、一定の勢いをつけて注ぐことで、炭酸のあがっていく力を担保したいところだ。
と、いろいろ解説してみたが、ゲートのカクテルたちはこんな「理由」でできているんだと知ってくれたらありがたい。