今回は、(旧)カクテルの王様、マティーニの「理由」について。

そして、今回注目してもらいたいのは、ステアの2種類のアプローチについてだ。

勝手に名付けると、「進めるステア」と「戻すステア」。

両者の違いを考えながら読んでもらいたい。

Martini ( 杉渕Ver )

  • Dry Gin (冷凍)      90ml
  • Dry Vermouth      15ml程度
  • Orange Bitters       1drop
  • Stuffed Olive        1個
  • Lemon Peel         1片

氷を入れたミキシンググラスに、ドライベルモットを入れミキシンググラスがよく冷えるまでよくステアする。ドライベルモットは一度ショットグラスなどにあけておき、グラスの中で、スタフドオリーブの塩抜きをして、カクテルピンを刺しておく。

ドライベルモットをよく水切りしたら、オレンジビターを1ドロップ、冷凍のドライジンを注ぐ。なじませるようにゆっくりとステアして、ジンの香りが戻ってきたところでステアを止め、よく冷えたカクテルグラスに注ぐ。

オリーブをグラスに沈め、最後にレモンピールをして供する。

上記の、現在の私のレシピは、ベリーベリードライなレシピで、いわゆる「ベルモットリンス」と言われる手法だ。ベルモットをいちど捨ててしまうため、氷に付着したベルモットとジンだけで味の構成をする。レシピだけ見ると、ほとんどジンのストレートを飲んでいるのと変わらないが、これも仕上げ方次第で味わいが大きく変わる。

さて、冒頭の2種類のステアの違いだが、私は下記のように分類している。

・常温、または冷蔵のお酒を使い、なじませながら温度を下げていく → 「進めるステア」

・冷凍のものを使い、なじませながら温度を上げていく            → 「戻すステア」

まず、「進めるステア」

常温のものを使い、冷やしながら混ぜていく「進めるステア」の難易度はかなり高い。

冷凍庫の満足になかった時代に、氷だけで冷却をしていた習慣からの技術だが、これは実際にかなりの氷がとける。

さっさと仕上げないと、ただただ水っぽく、ぼんやりした味のカクテルができあがる。

だったら、はやくかき混ぜて氷があまりとけないうちに仕上げればいいと思うだろう。

しかし厄介なことに、高速ステアでは冷却しかできないのだ。ミキシンググラスのなかで、

ジンとベルモットがそれぞれ冷えて、混ざりあわずにグラスのなかに同居しているだけだ。

遠心力だけでは、混ざりやすいお酒同士でも「なじまない」のだ。

だからこそ「進めるステア」で美味しく仕上げることができるようになったら、自分の技量に大いに自信を持ってもらいたい。

ステアで仕上げるカクテルの練習をするなら、断然、常温からの「進めるステア」だ。

そして、「戻すステア」

これは、氷よりも低い温度で冷凍されていたお酒をつかい、なじませながら液体の温度を戻して(上げて)いき、香りが戻ってきたところでステアを止めるという技法だ。

ゆっくりと、やさしく混ぜることでお酒はなじむ。氷より冷たい液体を注いでいるため、

氷が過剰にとける心配はしなくていい。回転とともに温度も上昇し(氷の温度に近づいてくるため)、冷凍のために抑えられていた香りも戻ってくる。

ここでステアを止めることで、逆算的に目的(よく冷え、よくなじみ、香りが立つ最高の状態)を果たすことができる。

ざっと説明したが、わかっていただけただろうか。

現在、日本全国のBARでのマティーニの作り方の9割以上は、この「戻すステア」でのアプローチだと思うし、実際「戻すステア」のほうが圧倒的に楽ちんだ。

ただ、このアプローチは冷凍庫の普及の産物として、副次的にできたものだと思う。

先人たちや現役のバーテンダーは、「進めるステア」の技量を持ちながら、「戻すステア」を現在選択しているだけなのだ。

ちなみに、現在まで私自身、ベストだと思うマティーニのレシピはまだ完成していない。

いつか最高のジンに出会う日のために、充分に準備をしておきたい。